1. 文 化
[1]
にゅうめんを食べていた
私はその説明を英語でした
どんぶりのなかに
玉子が入っていた
私たちは
黄身をはしで割った
こしあんと粒あん
白あんと小豆(しょうず)あん
もちと白玉
それらの違いを
英語で説明するのは
なんと難しいことだろう
でも にゅうめんを食べながら
なぜ私たちは
生と死を語ったのだろう
あなたは火葬されることを望み
「灰を 海にまいてもらう」と言った
私の体は 解剖室へと運ばれる
[2]
はしで割った玉子の黄身は
思っていた以上に黄色かった
それは白くて細い麺に
月がとけるように流れた
体はこのようなものでできている
私はそれを そっとかき混ぜた
私たちは出会って
2日をともにすごしたにすぎない
それは人生を語り合うのに
十分な長さであっただろうか
あなたが「食べ方を教えて」と言いながら
麺をすすった
にゅうめんの後(あと)に
ぜんざいを食べた
木製の器は 手にしても熱くなく
浮いていたぶぶあられが
かすかに こげた香りをはなった
年齢を教えてくれたのは その時であった
おしることぜんざいの違いは?
その質問が出されると考えていた
でもあなたは 椀に浮いていたひとひらの
さくらの花びらについてたずねた
「これはきっと去年のさくらね
今年のは 今咲いているもの」
[3]
外に出ると さくらは花を誇って
疏水に枝をはり出していた
私たちは訪れる夕闇に
「ちょっと待って
もう1枚写真を撮るの」と言いながら
ともにカメラの前に立った
さくらは翌日 散りはじめた
疏水の流れに身をまかせ
下流の人にまでも 季節の美しさを伝えた
あなたは間もなく帰国する
再会を誓い合ったが
私たちは きっともう会わないだろう
年月をへて
ことばの説明につまずいたことのみが
昨日のできごとのように
思い出されるだろう
やがてあなたは海の人になり
私は 実習室に横たわる
日々は
疏水のひとひらとなって流れたが
私たちの体は
季節と食べものが
無に帰することなく
後(のち)の人々の尊い教えとなることを 知っている